キス我慢選手権 the Movie

いやぁ、見ましたよ 『キス我慢選手権 the Movie』
素晴らしい。
同業者として、最大限の賛辞を送りたいと思います。

全然ご存じない方のために、『キス我慢選手権』について
簡単におさらいしましょう

発端は2005年 まだ30歳になったばかりの テレビ東京のプロデューサーだった
佐久間宣行さんが立ち上げた、深夜の実験的バラエティ『ゴッドタン』の中で
芸人がセクシー女優からのお色気攻撃に、1時間耐えられるのだろうか?
という、きわめてゲスい企画から始まりました。

その企画は、普通に深夜のヤケクソバラエティっぽく進行していったのですが
劇団ひとりの番が来た時に小さな奇跡が起きました。
そこに現れた 当時ロリ系AV女優として人気がある・・・ということでキャスティング
されたにすぎなかった一人の女優との出会いが、劇団ひとりの
アドリブ芝居の才能を開花させたのです。
その女優の名はみひろと言いました。

二人は単にキスをするしない・・・というやりとりを発展させて恋人たちの
切なくも悲しいラブストーリーを即興で作り上げて見せました。

ここまでは、まあ『キャラ合戦』みたいな所もありました
ところが、1年後
レギュラー番組となったゴッドタンが満を持して2回目の『キス我慢』を
行います。
前回同様何も知らされていなかった 劇団ひとりの前に
現れたのは、高校生姿のみひろ。

そこで 本当の奇跡が訪れます。
みひろは劇団ひとりにも制服を着せて、二人は即興で学園ドラマを演じて見せます。
攻めるみひろ・答える省吾。
さらに、それをドラマっぽく撮りだす技術陣。
文字通り筋書きのない即興ドラマは、
誰も分からない結末へと突っ走ったのです。

これこそが、テレビ界でも珍しい、即興芝居バラエティが誕生した瞬間でした。
この第2回『キス我慢選手権』をきっかけに
劇団ひとりとみひろは、数々の名作エチュードを完成させます。

このフォーマットの秀逸な所は
かのヒッチコックが『ロープ』で試した、オンタイム・シームレス映像劇を
本当にオンタイム&アドリブで実現してしまったという所にあります。

つまり、ヒッチコックは舞台劇の中継であるかのように
実験をした映画を撮ったのですが、それをテレビマンたちが真顔で
やってみちゃったわけです。

しかもその『やってみちゃった』きっかけさえも
みひろとひとりの、奇跡の出会いに引きずられて決まっちゃったという
全てがまさに偶然の産物なわけだったのです。

その『奇跡の偶然』はついに、テレビ東京の深夜バラエティをスクリーンにのせてしまいました。

この『キス我慢選手権』は
主演男優は何も知らないまま、アドリブで動くという事のほかに
それを 同時におぎやはぎやバナナマンが、見てコメントをしているという
通常の映画の何倍も大変な企画です。

つまり どう動くか分からない主演男優をとらえるべく
20台近いカメラが構えていて、
それが相互に映らないようにしつつ、当然音声マイクや照明も
映らないようにして、
それでいて、その映像を同時にモニタールームに送らなくてはいけないのです。

映像を同時に中継車に送るためには
映画のフィルムカメラと違って、テレビカメラは中継車とケーブルで
物理的に繋がっています。

つまりカメラマンはケーブルを引っ張った状態で
四方八方にいる自分の同僚のカメラを映しこむことなく
どう動くか分からない劇団ひとりを映していたわけです

さらに、当然カメラマンが動けば足音がします。
ケーブルが地面につけば、引きずった音がします。
そんな雑音をカットしつつ、音声をクリアーに録音した
音声マンは、今回奇跡的な仕事をしたと思います。

普通の映画は一カットずつ撮って編集すればいいわけで
カメラはいくらでも逃げられます。
でも、この映画はそうは行かないのです。

それをオールロケで、ほんとに24時間でやりきった
制作・技術スタッフの苦労話は、パンフレットに載っていますが、
正直言って、それも爆発的に面白いです。

この映画は、だれも分からない結末に向かって
運命だけが引っ張っていくという意味で
まさに『お笑い地獄の黙示録』です。

そして『地獄の黙示録』のメイキング『ハートオブダークネス』が
現場の混沌と狂気を描き出しているのと同様、
現場スタッフのコメントからも、同じような 濃厚な狂気があふれ出ていました。

是非DVDにはメイキングをつけて欲しいです。

映画自体のクオリティ云々については、
この作品が 撮影形式における革命性 を持っているという
その一言に尽きます。

なにしろ 映画120年の歴史の中で
『主演男優が何も知らない』
『オーディオコメンタリーを同時に撮影する』
こと自体が無かったことなのですから。

実は手の込んだテレビバラエティをちゃんと作りこむことは
映画を撮るより難しいわけで、
今回 ゴッドタンのすべてのスタッフは、その難題をクリアーして見せました。
その情熱が全てだと思います。

私は同じテレビマンとして、彼らに最大限の賛辞を送りたいと思います。
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Commented by よね at 2013-07-13 20:22 x
はじめまして、佐久間監督のツイッターから参りました。
「この映画は何か凄いことになっている」とは思いましたが、素人ゆえに言葉に出来ませんでした。
こうしてプロの方による解説を拝読し、改めてこの映画の凄さに感動しています。

ありがとうございました。
by AWAchampion | 2013-07-06 21:48 | 映画・演劇など | Trackback | Comments(1)