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シトラスの風~SUNRISEを見ました

先日、東京宝塚劇場で 宝塚歌劇団宙組公演 「天は赤き河のほとり」「シトラスの風~sunrise」を
見てきました。
「シトラスの風」は 私の父親 岡田敬二が提唱していた
ロマンチック・レビューの第20作目として発表された作品で、基本的には
20年前の1998年 宙組発足の記念公演として演じられた作品をベースにしています。

あまり身内が内容のことを言うのもどうかと思うのですが
父が常日頃言っている「レビューに対する批評活動が非常に少ない」
「レビューこそが総合芸術である」という思いに賛同しますので
演出家歴18年の若輩テレビ演出家として この作品をご紹介したいと思います。

まず、影ナレーションが明けると
紺色のライトが当たったミラーボールが回り始めます。
そしてオーケストラの高鳴りとともに 緞帳が開くと・・・

目の前一面に 70名近い人々が
レモンイエロー・ペパーミントグリーン・水色など 
パステルカラーの衣装でドン!と勢揃いして立っています。

このレモンイエローやペパーミントグリーン、水色などは
ディズニーランドに行くと分かりますが、ディズニーが伝統的に
善良な村やファンタジー世界を表現するのに使われる色あいです。
豊穣な実りを表現したそうですが、このビジュアルイメージだけで
一気に夢の世界へと引きずり込まれる もの凄いインパクトがありました。

それが朝を表現するような 明るい光の中に立っているので
見るだけで希望を感じるオープニングです。

音がはじけると、その隊列は弾け 群舞が始まります
それぞれが透け感のある素材の衣装をまとっているので
彼女たちが回転する度に 舞台からまさにさわやかな風が
吹いてくるような感覚に陥ります。

セットはそれほど大きなモノではありません。
むしろ画面全体を覆っている 電飾が微妙に色を変えることで
雰囲気を変えています。
セットは 群舞の衣装を映えさせるような工夫が施されていると言えます。

音楽は 16小節ごとに微妙にテンポを変化させます。
その中で 娘役の一団・若い男役・組長を初めとする成熟した男役 など数グループが
それぞれのキャラクターを表すようなダンスを繰り広げます。

そして再び淡い色が全面に展開し、照明と電飾が音楽とともに一気に暗くなると
群衆が割れ、奥からスポットライトの中に
マゼンダの服を着た トップスター(真風涼帆)が登場します。

男役トップ4人がまとう マゼンダ→紫のグラデーションが、
ほかのパステルカラーの70人から、違和感なくしかし目立って見えるのは
これもディズニーランドに行けば分かりますが、「イッツ・ア・スモールワールド」などで
暗部を表現するために マゼンダが使われている事でも分かるように
このファンタジーの世界の 夜を表した色だからなのです。

マゼンダの男役たちが中央で舞い踊る間、電飾も暗めの緑や紺になっています。
それが曲調の高まりとともに 微妙に色を変え
やがて サビの最高潮の所で、一気に電飾が黄色に、照明は朝の雰囲気にかわります。
その瞬間 舞台上から まさに「シトラスの突風」が客席に向かって吹き付けるのです。

この数分間のオープニングの中に
照明・装置・衣装・音楽・振り付け・そして演出の技術の粋が込められています。
コレは是非 この機会に生で見ていただきたいです。
空間の空気を動かすためには、観客の目線や生理をこちらの意のままにしないと
起こりえない現象です。匠たちがどのようにそれを導いていったか・・・
宝塚歌劇のレビューの奥義が詰まった6分間と言えますね。
映像ではどうしても 舞台収録ディレクターの意思が入りますから
これこそ 是非劇場でご覧下さい

その後、トップ男役4人が銀橋(宝塚歌劇の花道)で 吉﨑憲治さん作曲の
宝塚らしい人生賛歌を歌い上げ、ファンたちを魅了します。
よく見ると 服に入った刺繍は 飾りの花模様。大人の男の洒落た粋を感じさせます。

第2幕は トローリーソング
元は1944年に公開されたMGM映画「若草の頃(Meet me in St Louis)」で
当時16歳だったジュディ・ガーランドが初恋の弾ける思いを、
路面電車の上で歌い踊る名シーンからインスパイアされたシーンです。

映画でまさに弾けるような魅力を出していた 若き天才ジュディに負けじと
今年わずか研4ながら 娘役トップの座に着いた星風まどかが、かわいらしい魅力を
振りまくダンスを披露します。

中西部セントルイス・1900年代初頭 アメリカがとてものどかで豊かだった時代の
お祭りの様子を 父が青春時代に見たであろう高揚感とともに描いていきます。

やがてお祭りに雨が降り、娘はある紳士と雨宿りします
そこで恋に落ち 二人だけのダンスが始まります。ここの照明やシチュエーションなど
「LA・LA・LAND」を思い浮かべた方も多いでしょう。
それもそのはず、かの映画も、この場面もともにフレッド・アステアの名シーンから
インスパイアされてるのです。
(パンフレットに役名も フレッドとあります)
MGMが作ったミュージカル映画の最も良いところを作り上げた
素晴らしいシーンと言えます

実は、ジュディ・ガーランドとフレッド・アステアは後に映画「イースターパレード」などで共演します。
が!その頃はもうジュディ・ガーランドはあの頃の可憐な少女ではなく、
「私の方がスターなんだ!」とアステアに挑みかかるように
演じていて、さらにアステアとジュディー・ガーランドはちょっと歳も離れているので
映画の中では ロマンチックな感じにはなりませんでした。
(「Couple of swells」というコミカルな名シーンはあるんですが・・・)
だから 父は映画ファンとして 理想のシーンを今回作り上げたのでしょう。

第3幕は ソウル・スピリット
暗い夜の街角に 8つの箱だけが置かれていて
そこに かつてのダンスの名手 ミスター・ボージャングルが酒浸りで倒れています。
その前で ひとりの青年が 彼の思い出を歌い上げると
ミスター・ボージャングルが闇の中から 踊り始めるのです・・・

この短くも印象的なシーン 振り付けはやはり炎の巨匠 謝珠栄さんでした。
父のコメントによると「4分しかないシーンだったが、謝さんから強烈に売り込みがあった
シーンだ」と言っていましたが確かに素晴らしくも哀愁のあるシーンに仕上がっています。

この 酒浸りのミスター・ボージャングルを演じているのが
宙組の組長(最年長者)寿つかささん。彼女は初演の「シトラスの風」に出演しており
その当時は男役の5番手ぐらいで ダンスの名手として知られていました。
リアルな思い出を上手く使った名シーンでした。

装置も 少しずつ大きさの違う箱だけで表現されていますが
それが 光ることで都会の街角をミニマムに表現した 素晴らしい装置だと思いました。

第4幕は アマポーラ
まず ひとりの青年が名曲「アマポーラ」を銀橋で歌い上げます。
古いロマンチック・レビューファンの方は覚えていおいでかも知れませんが
「ラ・ノスタルジー」で明日香都さんが独唱したのがこの「アマポーラ」
当時もおなじように 頭に頭巾を着けて歌っていました

独唱が終わると幕が開き 群舞となります
それぞれ 男性も女性も頭に頭巾をつけた スペイン風の衣装を身にまとっているのは
「アマポーラ」がもともとスペインの曲だという事から来ているのかも知れません

宝塚歌劇には欠かせないラテン要素たっぷりの 中詰め
ロマンチック・レビューファンなら「ナルシス・ノワール」での
日向薫VS紫苑ゆうという 2大スターのマタドールのシーンなどを思い浮かべる
方も多いのではないでしょうか?

つづいて第5幕は ノスタルジア
まず暗転とともに 「シチリアでの出会い」を表すモノローグがかかります。
明転するとそこは 19世紀の貴族の舞踏会。
父曰く「ルキノ・ヴィスコンティの「山猫」「夏の嵐」などを多い浮かべた」という
このシーンは ロマンチック・レビューではお馴染みの
三角関係をバレエで表現するブロックです。

歌手マチルドに扮する星風まどかが、自分のパトロンであり情夫(いろ)である
芹香斗亜(男役二番手)に、雑な扱いを受けて傷ついています。
その心模様を表すために 歌い始めます。
歌はプッチーニ「ジャンニ・スキッキ」より『お父様お願い』
特に日本では非常に有名なオペラの歌曲です。
(もともと超有名曲ですが
 日本では大林宣彦監督の『異人達との夏』で一躍有名になりました)
実は歌の内容が 父に恋人との結婚を願い出る明るい曲なのですが
それが、恋人の冷えた関係の中で歌わざるをえない 皮肉な状況が描かれます。

そこへ、奥から真風涼帆扮する青年将校が現われ、二人は恋に落ちます
しかしそれは報われぬ恋。やがて二人の男の中で揺れる女心がダンスで表現され
最後に、その恋は報われぬまま、自分の恋の証として手袋を将校に渡すのです。

このシーンの振り付けは羽山先生。喜多先生亡き後宝塚の男役の美しさを
守ってきた門番のような方です。初演時の姿月あさとさんの凜々しい将校姿が
思い出される名シーンですが、今回の若い3人もしっかりと演じきっていました。

ただ、そのあと、本当は一人で将校が踊るくだりがあるはずのシーンだそうですが
今回は時間の関係で そこがカットされて、唐突な暗転の中
モノローグで「私はこのシチリアの夜を忘れない」とあって、
すぐ次のロケットダンスに
行ってしまったので、レビュー特性のある人は良いのですが、多分レビューを初めて
見た方は まだお話がつづいていると思ったでしょう。
ここは最後のモノローグを切った方が良かったかも知れませんね。
オーケストラヒットは付いていたので「何かが終わった」感がそれでも分かりますから。

そして次がロケットダンス
若い団員たちが弾けるように踊ります。
宝塚のロケットダンスは基本 若手は男役も女役も一緒になって踊るのですが
研5ぐらいになると 普段は「男っぽくあれ」と相当意識している人たちなので
足をあれほど見せるのは抵抗があるようで、ベテランになればなるほど恥じらうという
本場パリのクレージーホースとかとは逆転した感じが
初々しくて宝塚らしいですよね。

このロケットダンスの数分間の間に 目にもとまらぬ早変わりを見せ
真風涼帆は次のシーンにも登場します

第7幕は 明日へのエナジー
まず大黒バックで、黒いコートを着た男たちが 歌い上げます
やがてその背景の大黒が割れ、十字架の電飾が現われると同時に曲調が
ゴスペルに変わります。
電飾の表れと同時に 奥では白い聖歌隊の格好としたコーラス隊が現われ
手前の黒いコートの男たちは 胸をはだけると
紫やオレンジと言った ショッキングな色がコートの裏地に付いています。

そのまま 神からの光を表す 白く青めの逆行の中で
ゴスペルを歌い上げ、激しく踊ります。
ここは まさに「よ!謝珠栄!!」とかけ声をかけたくなる 謝先生の独壇場!
ケレン味たっぷりのシーンは、最高の盛り上がりの中 終わります。

このシーンは 曲調も同じフレーズのリフに、どんどん楽器が重なっていく
いわゆる『ボレロ方式』を使っていて、独唱からドンドン厚みが出てくるような設計に
なっています。
そのなかで、照明、装置、衣装などがタッグを組んで 音の同じタイミングで
ドンドン空間の厚みを増す、これも宝塚ならではの演出と言えます。
こう言うシーンは なんとなく 今や演出家となった私からすると
その指示書の雰囲気が分かるような気もします。でもテレビの世界では
厚みもショボいモノしか加えられないんですよねぇ・・・。本当にうらやましいです。

そして結構ほかのミュージカルと違うところは
ほかのミュージカルは 音の同じタイミングで
舞台のあちこちで同時多発的にいろんな事が起こるように 目線を散らしたくなるのです。
その方が空間に広がりが出ますからね。

でも宝塚の特にレビューの場合 スターがひとりでそこに目線を集中させるので
ドンドン厚みを増す演出でも 目線は最終的にスターひとりに注がれるように作ります。
だからこそ出る あの爆発力と空間の厚みなのです。

二番手スター の幕前での独唱をはさみ
第8幕の 幕が上がると
画面中央には 黒いコロナの太陽が浮かび上がります。
こここそ「SUNRISE」と副題が付いた 今回の新シーンです。

黒い皆既日食の前で 白い燕尾服をまとった男たちが踊る姿は
まさに男役の美しさが最大限に表現されたシーンです

そしてエンディングへ・・・・

まさにお腹いっぱいの55分間でした。
レビューを、そして宝塚の技術を堪能しました。

Twitterなどを拝見しても
おおむね好評でとてもありがたい限りです。

私は、この舞台を見た後
日比谷の駅で 不意に涙があふれて止まらなくなってしまいました。
宝塚歌劇団は 20代から60代まで 40人近い演出家さんを抱えた大所帯です。
そういう若い人たちがいらっしゃるのに、わざわざ今回77歳になる父に声をかけて下さったのは
やはり、ずっと父を支えて下さってきたスタッフの方々、生徒の方々はもちろん
会社の中の方々も含めて いろんな方々が
「岡田敬二にもう1本担当させてやろう」と思って下さったおかげです。
そしてそれをファンの方々も受け入れて下さっている。こんなに幸せなことはありません。

演出というのはひとりでは出来ません。
多くの出会いの中で 作品はできあがってきます。
特に今回ほど 今まで父に寄せていただいた出会いと、皆様のご厚意をありがたいと
思った事はありません。
『ロマンチック・レビューの区切りの20作目を岡田敬二に作らせてやろう』と
手をさしのべて下さった全ての方に ホントにお礼が言いたいです。
ありがとうございました。































 



by AWAchampion | 2018-05-20 13:56 | 映画・演劇など | Comments(0)