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「霧深きエルベのほとり」「エストレージャス」

北翔海莉さんのディナーショーの際に
父と久しぶりに会いまして 色々話をしていたのですが
やはり 今東京宝塚劇場でやっている 「霧深きエルベのほとり」が
父が 宝塚歌劇団に入団して(1963年)
まだ見習いで初めて現場に着いた作品だったそうです


というわけで、かの大演出家 菊田一夫さんの代表作の一つ
「霧深きエルベのほとり」を見てきました

1963年初演で 父によると 現場Pが高木史朗先生
演出補が鴨川清作先生 演出助手が酒井澄夫先生と 大関弘政先生
(ここまでがクレジットに載っています)
そして4番目の見習い演出助手が 岡田敬二だったということです。

音楽家も入江先生、中元先生、寺田先生、吉﨑先生と
後の宝塚の重鎮ばかり!如何に菊田一夫という人が当時既に超大物だったか?が
分かります

ご存知の通り菊田先生は森繁久弥さんらと共に、東宝演劇の基礎を築き上げた
偉人です。その影響は森繁さんを通して テレビ界では久世光彦に受け継がれ
私が久世さんの30番目の弟子になっていますから、
なんだかんだ 芸事の上でも一応 父は 私にとって 菊田一門の叔父貴弟子ということに
なるのかもしれません

さて「霧深きエルベのほとり」ですが
舞台はハンブルグ 秋のビール祭り(今で言うオクトーバーフェストですね)開催中
港に着いた外洋船の水夫 カールは、酒場で家出娘のマルギットと出会う
マルギットは世間知らずのお嬢様で、どうやら良家の出だが、
カールは彼女を祭りで賑わう ハンブルグの町に連れ出し 
そして恋に落ちる

翌朝 マルギットとカールは結婚のちぎりを交わすが
実はマルギットはハンブルグ一帯で最も名高い名家の長女で、婚約者から逃げてきたのだった
警察に取り囲まれてしまう二人。

カールと結婚できないと 死ぬというマルギットに父は仕方なく
カールを婿養子にすると言うが、名門の家のしきたりはカールには難しく
カールは イヤな男の振りをしてマルギットと対立 また船へと戻っていく・・・

というお話で、マドロスと令嬢の悲恋というのは
いかにも1963年の 学生運動的な価値観の作品で 当時を色濃く反映しているなぁと
言うのが第一印象でした

しかし、見ていくやはり菊田節は至る所に出て来ます。
例えば
カールがマルギットを港が見える高台に連れだして・・・。
「家出娘というのは 親に反発して家を出て
酒場で飲んだこと無い酒を飲み ろくでもない男に捕まって
眺めの良い場所に連れて行かれて 酷い目に遭うと相場が決まってる」

マルギットが「じゃあ私もそうなの?」

カール「まあとりあえずろくでもない男に捕まって 眺めの良い場所に来てるわけだから
順番で言えば 次は酷い目に遭う」

と、笑わせながらも カールの「嫌いになれない性格」やら
マルギットの「負けず嫌いの性格」を一気に紹介する所なんかは
「よっ!菊田一夫!」と声をかけたくなりました。

また泣かせるテクニックがエグい!
カールは無理矢理 イヤな男を演じて 
マルギット父から手切れ金をぶんどり、安酒場で水夫仲間に奢ります

その後、娼婦と二人きりになったところで
娼婦に「あんた 昔の私の旦那に少し似てるよ」と声をかけられた
カールは、娼婦に「お前のこと 今だけマルギットって呼んでも良いか?」
と前置きをして
「俺はお前がホントに好きなんだよぉぉぉぉぉ!」と泣き崩れるシーンが
あるのですが
そういう 一見関係無いところにこそ 主人公の感情が最も表われるシーンを
持ってくるというのは 森繁さんも久世さんに繰り返し禅問答のように
教え込んでいたらしく 直接的にも聞いた頃がありますし
久世さんのエッセイにも書いてありました

「これか!」

と私は 菊田メソッドを目の当たりにして感動していたのですが
周りのマダムも女子高生も まさにグイ泣き!
エグい位みんな泣いていました

すげぇー やはり菊田一夫スゲー!


そしてレビューは 中村暁さん演出の「エストレージャス~星たち」でした
父が昔「併演はレビュー「●●」としか書かれない」と怒ってましたので 少しだけ
こちらについても書きます

この エストレージャスとは スペイン語で「星」という意味で
プロレスのスター選手を 「スペル・エストレージャ」と言ったりします。
星組公演にかけたのかも知れませんね?

父の作品ならシーンごとに色々書きますが
今回は 2階席で見ていたことも有り、演出家の意図する所がまんべんなく
理解できたかどうかは分かりません。なので大きな所だけ書きます。

この作品で 最も特徴的なこと。それは星がコンセプトなので
中村さんは思い切って 8場55分 ず~~っと 背景の大黒幕(おおぐろまく)を降ろしたまま
全てナイトシーンで展開させます。

これはかなり野心的な試みです
背景を黒くすると、確かに白っぽい衣装などは映えるのですが、舞台全体の輝度が落ちるので
宝塚ほどの電飾や照明の光量がないと 地味な作品になってしまうのです。
今回は レーザー光線やら 星雲スライドなどを駆使して
美術さんや照明さんが必死に 盛り上げていました

なぜコンナことを書いたかというと 私も実は経験があるんです
Rの法則を撮った時 4曲唄うタレントさんの衣装がそれぞれ パステル調で可愛かったので
衣装を目立たせたくて
背景を基本 ネイビーで構成して キラキラしたビーズを前に吊るした舞台にしました。

そしたらその場にいた紅白の演出家さんとレコード会社の人に
「岡田君。やりたい意図は分かるが、テレビの場合 輝度を落とすと肌の発色が悪くなって
しまう。4曲全部寒色の背景は辞めてくれ」といわれた事があります

少なくともテレビでは許されない試みを ベテランの中村さんがやったというのは
それだけ彼が レビューに対して表現の幅を広げたいと思っている証拠かも知れません。
なるほどなぁ・・・と思いながら見ていました。

単に「星」にこだわると言うことであれば 明けの明星だの、日没時のマジックアワーだので
ホリゾント幕を赤くしたり 白くしたりする口実はいくらでもあります。
だからホントに今回の企画書のメインコンセプトが
「全篇ナイトシーン」だったのでしょう。









by AWAchampion | 2019-03-01 14:11 | 映画・演劇など | Comments(0)