人気ブログランキング | 話題のタグを見る

今年最初に見た映画「さよならテレビ」

さて今年最初に見た映画は 東海テレビのドキュメンタリー映画
「さよならテレビ」でした

これは 2018年に放送されてとても話題になったドキュメンタリーで
東海テレビが 自局のニュース報道チームにカメラを入れて長期取材を敢行。
そこで描かれた「今のテレビとは…」というものでした。

東海テレビは「やくざと憲法」など多くのドキュメンタリーを
映画にしていて非常に高い評価を得ています。
そして私も、東海テレビで「The 世界力」シリーズを数年演出させて
いただいているので、当然この番組のことはよく知っていましたが
東海地方のみの放送だったために 見たことがありませんでした。


見た感想ですが
これはいろんな フェイズでいろいろ言いたいことがある映画でしたね。
私もテレビマンの端くれですから、ここで描かれていることは
日々体験していることでもあります。

まずマクロな話から行くと
この題材の、ノンナレーション、ノンテロップのハードドキュメンタリーを
ちゃんと自局でテレビ番組にできる東海テレビは
それだけでかなり良いテレビ局だと思いましたね。

今のテレビはドキュメンタリーといえど、製作者の声である
ナレーションや、テロップは不可欠です。
しかしこれは非常にストロングスタイルなドキュメンタリーであり
ぶっちゃけて言えば、「テレビ番組としての引きが弱い」構造なのです。
にもかかわらず 放送したという こと自体が素晴らしいと思いました。

また、私は東海テレビさんで スポーツドキュメンタリー的なことを
やらせていただいてはいますが、こういうハードなドキュメンタリーを
作る能力も気概もありません。
だから素直にクオリティに関してはすごいなぁと思いました。

という前提があったうえで‥‥。

で、中身ですが
てっきり私は「今のテレビ局のタブーに切れ込むセンセーショナルな…」
ドキュメンタリーだと思っていましたが
どちらかというと「理想は理想として、視聴率に流される俺たちの弱さ」
みたいな作品でした。

ちょっと詳しく言うと
テレビ局の報道は、テレビ局員である編集長・デスク・局員記者と
フリーの「契約社員記者」に分かれています。

そこで今回は3人の人が主人公に選ばれます
A 夕方のニュースのメインキャスター 局員 
B フリーの中年記者 いつもは暇ネタをやっているが
  この中で義憤に駆られて共謀罪を告発する特集を組む
C フリーの新人記者 失敗を重ねて1年で解雇される

そして物語は 主にBさんとCさんを中心に
進んでいきます。
Bさんははじめはとても軽い感じでカメラの前に現れますが
そのうち 急にジャーナリスト魂を見せて 映画の中で
製作者の代弁者的な立場に立ちます

Cさんは、個人的にもちょっとダメ記者なのですが
それが怒られて無残に切りすれてられるさまを克明に描きます

またAさんは MCとして若くして抜擢されながらも
「自分らしく表現すること」と「報道としてきちんと伝えること」のはざまで
苦しんでいます

という話なのですが…。

ラストにBさんが「いやいや まてまて
あなたがこのドキュメンタリーを撮るために俺たちを
けしかけたり、マイク仕込んだりして ヤラセてるんじゃないか?
そんなドキュメンタリーの着地点でいいの?」とカメラの前で告発。

それをきっかけに 実はテレビの闇は この作品を作っているときに
行われているドキュメンタリーチームにも作為があって
カメラは決して本当のことを言わない。ドキュメンタリーといえど
作為に満ちていると告発気味に終わります。

という落ちで たぶん製作者は最後にネタを明かすことで
メタ構造をサプライズ的に見せることで、よりテレビの闇を描こうとしたんだと
思います。


が・・・

まあこれは私がテレビマンだということもあるのかもしれませんが
製作者の思いよりも45分ぐらい前にバレてるのでは?と思いました。

端的なシーンがあります

途中Bさんが 自宅にカメラチームを呼んで、自分の本棚を見せます。
そこにはかつての名ルポライター 本多勝一や鎌田慧らの著書が…。そこで
ジャーナリストとしての矜持を語ります。
そこは素晴らしいシーンだと思いましたが…

そのあと
フリーランス仲間の先輩記者と一緒に居酒屋に行ってBさんが
ジャーナリストが権力の監視者として頑張らねば!と熱弁を
ふるうところがあります。

これが、めちゃめちゃ 芝居臭いのです。
というか、たぶんBさんは、マイクをつけさせられて酒を飲まされる
時点で、狙いは分かったのでしょう。
それはぶっちゃけ ちょっとやりすぎな演出だと思います。

そこで とても分かりやすく テレビの前の我々に向けて
「俺今こういう役やらされてます」みたいなシグナルを送っているのです。

テレビというのはそういう空気をかなり敏感に捉えるメディアです。
私がテレビマンでなくても、この時点でBさんに対するうさん臭さなどを
感じたでしょう。

本来このシーンは「撮ったけど使っちゃいけない」シーンだと思います。
テレビ放送から映画にする時点で 20分足したそうなので
たぶん足したシーンじゃないか?と思います。

でもそれがゆえに
製作者の意図や、「作為」が早々にバレていて
ラストのメタ構造のサプライズ落ちが効いていない気がしました。

そうなると「テレビのメディアがそもそも持つ作為性を告発する」はずだった
主題が「俺たちもつらいのよ」的な主題に弱められている気がしました。
これは、正直 ドキュメンタリーチームよりも
取材対象者だったBさんのほうが ジャーナリストとして上手で、
「このシーンを使うようじゃ 君たちもまだまだだな」という風に
まんまとしてやられたんじゃないかな?と思いました。

また、この監督さんももちろん局員さん、プロデューサーさんも局員さんです。
そこが、フリー記者をメインに立て、もう一人の局員は自分の後輩だというところも
ん?と思いました

本来ならほんとは 局員であるデスクさんや編集長さんを描かないと
ダメなんだと思います。
どうですかね?
もしくはこの構成なら、ちゃんと ドキュメンタリーチームのヘッドである
プロデューサーさんのプレビューの様子をぼかさずに映したほうが
良かったのでは?とも思いましたよ?

という意味で
良い着眼点のドキュメンタリーだとは思いましたが
東海テレビドキュメンタリー部本来のエッジのきいた感じに
ならなかったのかもなぁ…という感想を抱きました






by AWAchampion | 2020-01-11 01:39 | テレビ | Comments(0)